毎日ばあちゃん

99才、お迎えが来たけど断ったばあちゃんの事。家族の事。自分の事。

vol.10 ごめんなさい・・・

ばあちゃんが入院して何度目かのお見舞いの時。

 

その日も私は1人で病室にいた。

ばあちゃんはベッドから窓の外をずっと見ている。

つぶらな瞳に何が映っているのか分からなかったけど、どこか遠く、ここではない向こう側の世界を見ているように思えた。

日差しが暖かく、時間の流れが緩やかで、私も丸イスに座りながらばあちゃんが眺める方向をなんとなしに眺めていた。

 

「あそこ、、は、誰が住んでるの?」

ふいにばあちゃんが尋ねる。

見ると小高い丘の上に赤い屋根の集合住宅が立っていた。

 

ここは過疎化が進む田舎町なので、なんとなくもう誰も住んでないような気がしたが、ばあちゃんが子供のような声で聞いてくるから「廃墟じゃないかな」という虚しい返答は躊躇われ

「誰が住んでいるのかなー。赤い屋根でかわいいね。」と的を得ない返事をした。

ばあちゃんはうんうんと2回頷き、そのまま目を閉じたので、そのまま寝るのかな?と思ったら、また目を開いて同じ方向をいつまでも見ていた。

私の答えに納得がいかなかったかな?と思いつつ、でもそれ以上口を開かずまた2人で静かな時間を過ごした。


 

母さんの話によると、ばあちゃんは時々、「昨日食べた蕎麦は本当に美味しかったー。。」だの、「昨日は〇〇さんのところに遊びに行って楽しかった。」だのと報告してくれるそうなので、きっと時折体から魂だけ抜け出して遊びに行ってるに違いない。

 

今夜あたり、あの赤い屋根の集合住宅にも遊びに行くのかもしれない。

 


私がいると、ばあちゃんは眠くても寝ずに起きていようと頑張ってしまうので、今日は早めに帰ろうかなと思った。

いつものように拘束手袋を付けようかなと準備していたら、ふいにばあちゃんが話始めた。

 

「お、おむかえ、、来たんだよ。」

 

私はびっくりして「えっ!?」と聞き返してしまった。

 

「お、おむかえ・・きたん・・だよ。」

 

「ばあちゃんのところに?」と私が聞くと、ばあちゃんは大きく1つ頷いた。

 

「で・・も・・断った。」

 


今度はびっくりし過ぎて声も出なかった。

ばあちゃんは聞こえてなかったのかと思ったようで、声を振り絞りながらもう一度

「断っ・・た。」と言った。


 

私の頭の中を色々な思いが駆け巡った。

 

空港からの、あの日の電話のこと。

死にかけてるばあちゃんに行かないでと心から願ったこと。



言葉にならなかった。

私のために?とはどうしても聞けなかった。


私にこの話しをしているということどけで、答えは聞かなくても分かる気がしたし、同時にそうだよと言われるのが怖かった。


嬉しい気持ちと罪悪感。

2つの気持ちが交錯して、その時私は、

「そっ・・・か・・。」と答えるのが精一杯だった。


 

ばあちゃんに拘束手袋をはめながら思った。

ばあちゃんをこんな状況にしたのはあたしだったんだな。。